はじめに
「このままで定年まで大丈夫だろうか…」「いつかは起業して、自分の力で生きていきたい」
そんな想いを抱えながら、毎日の業務に追われて気がつけば1年が経っている。そんな経験はありませんか?
40代、50代を迎えた多くの会社員が、将来への不安を感じながらも「なんとなく準備している」状態に陥っています。しかし実は、ある種の時間の使い方をしていると、本人は「確実に起業に近づいている」と錯覚してしまう一方で、現実はまったく前に進んでいないという事態が起こります。
今回は、そんな「準備しているつもり」の罠について、具体的な事例とともにお話しします。
優秀な会社員ほど陥る「準備の罠」
ある営業マネージャーの気づき
田中さん(仮名・50歳)は、大手メーカーの営業所で管理職を務める典型的な「できる会社員」でした。
日々の業務は会社からの指示をTODOリストに整理し、確実にこなしていく。上司からの信頼も厚く、部下からも慕われている。「会社員としては申し分ない」と自分でも思っていました。
ところが、業界再編の波で自社もグループ統合の話が浮上。今後のポジションが不透明になる可能性が出てきました。
「これを機に副業から始めて、将来的には独立も視野に入れよう」
そう決意した田中さんは、ネットで起業準備のワークシートをダウンロードしました。しかし、最初の質問で手が止まってしまったのです。
「あなたがやってみたいビジネスは何ですか?」 → 何も思いつかない
「あなたが人生で成し遂げたいことは何ですか?」 → 答えが見つからない
会社員が鍛えてきた「筋肉」の正体
「他人の期待に応える筋肉」vs「自分で決める筋肉」
長年の会社員生活で田中さんが鍛えてきたのは、「自分の意思とは無関係に、周囲の期待に的確に応える力」でした。
この能力は会社組織では極めて有効です。上司の評価を得やすく、社内での立ち位置を安定させてくれます。実際、多くの優秀な会社員がこの筋肉を発達させることで成功を収めています。
しかし、起業で求められるのは正反対の筋肉です。「自分の人生を自分で設計し、自分でリスクを取る力」こそが必要なのです。
市場を観察し、自分でテーマを決め、誰からも指示されない中で行動を起こし、その結果に責任を持つ。この筋肉を使わずに生きてきた結果、いざ「自分で何かを始めよう」と思っても、何から手をつけていいか分からない状態に陥ってしまったのです。
「準備しているつもり」の危険な時間の使い方
多くの会社員が陥りがちなのが、以下のような時間の使い方です。
× 起業セミナーに参加する 「勉強している」気分になりますが、他人の成功事例を聞くだけでは自分のビジネスは生まれません。
× 資格取得に励む スキルは大切ですが、「何のためのスキルか」が明確でなければ、単なる自己満足で終わります。
× ビジネス書を読み漁る 知識は増えますが、実行しなければ意味がありません。「勉強した気」になって満足してしまう危険があります。
× 副業の「準備」ばかりする 市場調査、競合分析、事業計画書作成…。準備に時間をかけすぎて、実際に始めることを先延ばしにしていませんか?
これらの活動は一見すると「起業に向けた前向きな行動」に見えますが、実は「自分で決めて行動する筋肉」をまったく鍛えていないのです。
本当に必要な「筋トレ」とは?
まずは小さな「自分で決める」から始める
起業準備の第一歩は、スキル習得でも市場調査でもありません。「自分で決めて動く筋肉」を鍛えることから始めましょう。
以下の質問に正直に答えてみてください。
- 上司や顧客から指示されなくても、自分でテーマを決めて動いた経験はありますか?
- 成果が見えなくても、純粋な好奇心だけで行動できますか?
- 責任とリスクを自分で背負えるテーマを持っていますか?
- 誰からも評価されなくても続けられることがありますか?
もしすべてが「NO」なら、今やるべきことは明確です。セミナーや資格取得ではなく、**「自分で決めて行動する練習」**です。
具体的な「筋トレ」方法
1. 小さな「自分プロジェクト」を始める 会社の業務とは関係ない、純粋に自分の興味から始めるプロジェクトを持ちましょう。ブログ、YouTube、地域活動、趣味のサークル運営など、規模は問いません。
2. 「なぜこれをやるのか」を言語化する 他人に説明を求められても、明確に答えられる理由を持ちましょう。「なんとなく」「勉強のため」ではなく、自分なりの価値観に基づいた動機が重要です。
3. 結果を恐れずに「始める」 完璧を求めず、小さくても実際にスタートしてみる。失敗を恐れる必要はありません。むしろ、自分で決めて自分で責任を取る経験そのものが財産になります。
4. 継続する仕組みを作る 誰からも評価されない、すぐに成果が見えない中でも続けられる理由と仕組みを考えてみましょう。これこそが起業家に必要な素養です。
まとめ:今こそ「筋肉の転換期」
長年の会社員生活で培った「周囲の期待に応える筋肉」は、確実にあなたを守ってくれました。それは立派なスキルであり、誇れる能力です。
しかし、それだけでは「自分で仕事を創り出す力」にはなりません。
もし今、「起業に向けて頑張っている」つもりになっているだけなら、その時間は人生の貴重な時間の浪費かもしれません。
起業とは、誰の指示もない未知の世界に飛び込むこと。まずは日常の小さな場面から、「自分の意思で決めて行動する」習慣を身につけることから始めませんか?
40代、50代は決して遅すぎる年齢ではありません。しかし、正しい筋肉を鍛える必要があることを理解して、今日から行動を変えていくことが重要です。
あなたの「本当の準備」は、今この瞬間から始めることができるのです。
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